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                 2003(平成15)年4月28日

内閣総理大臣 小泉純一郎 殿
厚生労働大臣 坂口  力 殿


 木村義雄厚生労働副大臣の不適格性に関する意見書

 木村義雄厚生労働副大臣の不適格性に関し、以下のとおり意見を述べます。

 なお、当法人は、法律家、医療従事者、ジャーナリスト、その他の市民(医療事故被害者を含みます。)から成る市民団体であり、真の「患者のための医療」をめざして活動しています。詳しくは、下記のホームページをご覧いただければ幸いです。
 
     特定非営利活動法人 患者のための医療ネット(PMネット)
     http://www.pm-net.jp/
     代表理事 藤 田 康 幸(弁護士)
    (連絡先)
     〒102-0083 東京都千代田区麹町6-4 麹町ハイツ209号
     TEL/FAX 03-3221-0355
     pm-jimu@egroups.co.jp
 
意見の要旨
 
 木村義雄厚生労働副大臣は、医療行政を所掌する副大臣としてはなはだ不見識であり、適格性を欠いていますので、解任することを求めます。
 
意見
 
 木村義雄厚生労働副大臣(以下「木村副大臣」)は、4月18日、厚生労働省の「臨床研修制度と地域医療に関する懇談会」において、
「(略)そもそも臨床研修はなぜやるのかという中で、もちろん人格的な医師を養成するということがありますが、一方で司法改革も行われていまして、弁護士がどんどん養成されようとしています。アメリカのように医療をネタにして稼いでやろうという、非常におかしな人たちがこれからどんどん増えてくると。これは非常に問題のある発言ですが、あえて言わせていただくと、そういう場面も予想されるわけで、こういう問題点にしっかり対応するためには、臨床研修の場というのは、大変大事な場ではないか。(略)何かあったらすぐに弁護士から訴えられるような日本の医療にしてはならないと、そういう思いでいっぱいであるから、あえて発言させていただいた次第です。(略)」
という発言(以下「木村発言」)をしました。

 この木村発言には非常に多くの問題があります。

 第1に、木村発言は、「何かあったらすぐに弁護士から訴えられるような日本の医療にしてはならない」という思いで「いっぱい」であるとのことですが、その場合の「何か」について分析的に考える態度が欠如しています。
 そもそも診療行為に過誤がある場合ないしその疑いが強い場合は提訴されてもやむをえないのであり、その意味で、木村副大臣には、提訴されてもやむをえない場合とそうでない場合を区別して論じる姿勢が欠けています。

 第2に、木村発言は、日本の医療事故被害をめぐる状況についての甚だしい認識不足に基づいています。
 日本の医療事故被害については、本来は提訴に至るべき場合でも、提訴に至るまでにハードルが極めて高い状況であり、多くの医療事故被害者が提訴をあきらめたり、泣き寝入りを余儀なくされることが多い状況です。政府が進めようとしている司法改革においても、法曹人口の拡大、審理期間の短縮等により、そのような状況を是正することが期待されていると言えるでしょう。木村副大臣は政府が進めようとしている司法改革の意義を正しく把握していないと言うべきです。

 第3に、木村発言は「アメリカのように医療をネタにして稼いでやろうという、非常におかしな人たちがこれからどんどん増えてくる」としていますが、アメリカの司法制度や医療事故についての取組みについて正しく理解していません。
 アメリカでは、多くの訴訟が起こされるわけですが、それはどの分野においても同じであり、特に医療事故訴訟だけが多いというわけではありません。アメリカにおいては、社会全体として司法の場における解決が強く期待される土壌が根強いわけであり、その点において、日本と大きく異なっている状況であると言えるでしょう。また、医療事故に関しては、医師免許更新制や州のメディカル・ボードによる医師の処分などにより、医療の質が確保され、医療事故の防止に寄与している面がありますが、それらの条件がない日本においては、医療被害者による民事訴訟の提起が医療事故の防止に寄与している面を過少評価してはいけないところです。

 第4に、木村発言は、政府が進めようとしている司法改革、そして、日米の司法制度の違いとの関係でも、短絡的すぎて不当なものです。
 政府が進められようとしている日本の司法改革は、2010年ごろに年間約3千人ずつ増やし、現在約2万人の法曹人口を、2018年ごろまでに約5万人と見込んでいるものです。これに対して、アメリカは、現在既に約100万人の法曹がおり、しかも、毎年約3万人ずつ法曹が増えている状況であって、国民数に対する法曹人口の割合が大幅に異なっています(法曹1人当たりの国民の数は、日本が約6,300人、 アメリカが約290人であり、このような大きな差はそう簡単には縮まりません)。
 このような大きな違いがあるほか、アメリカでは民事訴訟に提起にあたって、日本のように訴額に応じた印紙を貼ることが求められてはいません。また、アメリカには懲罰的損害賠償の制度があり、巨額の賠償を認める例が時々報道されて目立ちやすいのですが、日本ではそのような制度はありませんし、最高裁判例(平成9年7月11日第二小法廷判決)からしても、今後もそのような制度は導入されないでしょう。木村副大臣は、日本とアメリカの司法の違いを認識した上で発言したとすれば、それをことさらに無視しようとするものであり、もし認識していなかったとすれば、認識不足についての謙虚さを欠くものであります。

 第5に、木村発言は、臨床研修制度に関する懇談会の場で行われたものですが、場をわきまえておらず、しかも非常に偏ったものです。
 臨床研修制度を充実させるにあたって、「非常におかしな人たちがこれからどんどん増えてくる」という指摘をする内容的な必然性が全くありません。医療の質を確保するために臨床研修制度を充実させるための発言をすることこそ厚生労働副大臣の職務であるはずです。
 正当でない提訴等が増えるという趣旨であるならば、その正当でない提訴等のために臨床研修のあり方を変更する必要はありません。正当な提訴が増える場合には、医療の質を向上させるために臨床研修のあり方を検討する必要があるでしょうが、木村副大臣には、そのような観点が全くないことが明らかです。

 木村発言は、以上のように合理性・論理性を欠き、矛盾に充ちたものであり、木村副大臣は医療行政を所掌する副大臣としては極めて不適格です。
 毎日新聞の報道によれば、木村副大臣は、日本医師会の政治団体である日本医師連盟から献金やパーティ ー券購入で計5530万円の提供を受けていたことを含め、医療関係団体からの資金提供が1億6000万円を超えるとのことです。
 そのような多額の資金提供が今回の木村発言に影響していると見るのが自然です。
 国民としては、そのような多額の献金等を受けていた木村副大臣が医療行政を公正に遂行することを期待することができません。
 したがって、木村副大臣の解任を求める次第です。
以上