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「弁護士報酬の敗訴者負担の取扱い」についての意見書

司法制度改革推進本部 御中

2003年8月29日

  〒102-0083 東京都千代田区麹町6-4 麹町ハイツ209号
  特定非営利活動法人 患者のための医療ネット(PMネット)
  Homepage http://www.pm-net.jp/ 
  E-mail pm-jimu@egroups.co.jp
  代表理事 藤田康幸
  TEL/FAX 03-3221-0355

 「弁護士報酬の敗訴者負担の取扱い」についての意見募集に対し、以下のとおり意見を述べます。
 なお、当団体は、真の「患者のための医療」をめざして活動している非営利活動法人(NPO法人)で、弁護士など法律家、医師など医療従事者、医療被害者、その他の市民から構成されています。詳しくは、上記Homepageをご参照ください。

意見の要旨

 医療事故訴訟が医療の改善に果たしている機能からして、医療事故訴訟について「弁護士報酬の敗訴者負担の取扱い」をすべきではありません。

意見

 医療事故訴訟について「弁護士報酬の敗訴者負担の取扱い」をすることについては、既に、多くの団体・個人から、医療事故被害者が提訴に至るまでの困難な条件、原告と被告との間の情報力・経済力の著しい格差などの面が指摘されており、強い反対が表明されているところです。

 当NPO法人としては、それらの面以外に、医療事故訴訟が日本の医療の改善に果たしている機能の面を強く指摘し、反対します。
 これは、当NPO法人が、真の「患者のための医療」をめざして、弁護士など法律家、その他のさまざまな職業の市民のほか、医師など医療従事者や医療被害者からも構成されていることから指摘できることとも言えます。

 医療事故訴訟において責任の有無は、医療水準によって判断されます。

 この点については、最高裁第3小法廷平成8年(1996年)1月23日判決(民集50巻1号1頁、判時1571号57頁、判タ914号106頁)が、「医療水準は、医師の注意義務の基準(規範)となるものであるから、平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではなく、医師が医療慣行に従った医療行為を行ったからといって、医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない。」としているところです。

 また、最高裁第2小法廷平成7年(1995年)6月9日判決(民集49巻6号1499頁、判時1537号3頁、判タ883号92頁)は、「新規の治療法の存在を前提にして検査・診断・治療等に当たることが診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準であるかどうかを決するについては、当該医療機関の性格、その所在する地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮すべきであり、その治療法に関する知見が当該医療機関と類似の特性を備えた医療機関に相当程度普及しており、当該医療機関においてその知見を有することを期待することが相当と認められる場合には、特段の事情がない限り、その知見は当該医療機関にとっての医療水準であるというべきである。」としています。

 このように、過失判断の基準である医療水準は、単なる平均的慣行のレベルではなく、規範であって、「期待することが相当と認められる」レベルです。

 しかし、具体的にどのような行為が「期待することが相当と認められる」レベルであるかどうかの判断は容易ではありません。患者側は一般に高いレベルを期待するでしょうし、医療機関側は低いレベルを期待するとも言えます。

 なお、アメリカにおいても、医師の過失ないし義務違反はコミュニティの医療標準(standard of care)に基づいて判断され、コミュニティの医療標準は、同様の地域・状況で医療を行う、評判のよい(reputable)医師が通常有する知識・技術の程度などによって判断されています。

 医療水準を上昇させ、日本の医療を改善してきた原動力は何でしょうか。

 それは、「こんなレベルの診療がまかり通るのでは、おかしい」と考える医療事故被害者が、多くの困難にもかかわらず、裁判所に救済を求めて頑張ってきたからです。

 医療事故被害者が期待する水準を裁判所が医療水準と認めない危険は常にありました。しかし、その危険を覚悟しながらも医療事故被害者が頑張ってきたことにより、例えば、平成7年以来の最高裁判決(医療水準のレベルアップにつながる判決が10件以上も出されました。)が、日本の医療のレベルを改善することになりました。

 もしも、医療事故訴訟について「弁護士報酬の敗訴者負担の取扱い」を導入したら、医療水準のレベルアップを果たす医療事故被害者の提訴は大きく制約されることになります。

 それによって、医療水準のレベルアップが阻害され、そして、被害を受けるのは、すべての国民(いつ何時医療を受けるかも知れない人々)です。
 司法制度改革推進本部の皆さんも、いつ自分が医療被害を受けるかもしれないということを少しでもお考えいただければ幸いです。

                                           以上